志望校決定に関しての話です。昔は「この学校を目指して頑張りましょう」と塾主導で志望校を設定したこともありましたが、最近はそういうことをしないようにしています。
また、そういうチャレンジ校を勧めても、「そういうところで必死でやるより、少しレベルを落として、落ち着いてやりたい」といわれることが多いです。安定志向というやつでしょうか。
そんな中、進路に関する面談で、子供の進路に関してどのようにかかわるべきかを、考えさせられるものがありました。
子供の意見と親の意見が違う
父親と子供、そして私での三者面談です。
「〇〇高校ってどんな学校なんですか?」と父親から聞かれましたので、その高校について、知っている情報を話します。すると「なるほど、いい学校ですね」とおっしゃります。その学校は父親の母校だという話も聞きます。
父親は子供の方に向かってこう言います。「な、先生もいい学校って言ってくれてるぞ。どう思う?」
ここで私は察します。「あぁ、お父さんは子供に、この学校に行ってほしいんだな」と。
ところが子供は、ややうつむき加減で、何も言いません。実は、ここの家庭には少しややこしい事情があって、父親と子供の関係がうまくいっていません。
父親はあきらめたようにため息をつき、「ちょっと席を外すから、先生と話してみなさい」と子供に言います。そして私には「先生、よろしくお願いします」と、外に出ていきます。
子供を説得してください、ということでしょう。
2人になり、よくよく聞きだすと、どうやら子供としては別の、△△という高校に行きたいと考えている様子です。ただ、なぜその学校がいいと思ったのか、なぜ父親が勧める学校が嫌なのかの理由は、口にしません。
もしかするとそれは、父親に対する反発心だったのかもしれません。ここの家庭は父親の意見が強く、塾にも父親の意見で入りましたし、個別指導かクラス授業かの選択肢も、子供の意見がなく、父親が決めました。
今まで指示されてばかりだったので、この進路に関しては、自分の意思を示したいと思ったのかもしれません。
単純に二つの学校で迷っていて、どちらがいいかたずねられたら、「実際に勉強するのは子供なので、学校見学に行って、子供がいいと思う方に行かせるほうがいいんじゃないですか?」と話します。ですが、今回の面談の父親側の目的は、私に子供を説得してもらおうというものです。
そこで私は、子供にこう言います。
「何か譲れないものがあるなら、それをお父さんに言って納得してもらわないと。それなら先生も協力してあげるよ。でもその譲れないものがなく、なんとなくこっちの学校がいいなぁ、程度なら、お父さんが勧めている〇〇の方に、行った方がいいと思うよ。いろいろ思うことはあるだろうけれど、今回はお父さんの意見を尊重しておいたらどうかな。大学受験の時には、自分の考えで選べばいいんじゃないかな」
と、このような話をして、最終的には子供は納得して帰っていきました。いや、納得はしていないですね。反論しても無駄だと諦めた感じです。
父親は、とりあえず子供が「うん」と言ったので、満足です。私は何かもやもやしたものを、残したままです。
子供の意見がない
また、こういうこともありました。父親・母親・子供、そして私での面談です。
「〇〇高校のレベルはどうですか?」と父親から聞かれます。「偏差値~くらいですね」と答えます。そしてまた別の高校のレベルを聞かれるので、その高校の目安偏差値を答えます。以下その繰り返しが続きます。
「あと、ここの高校は資格も重視していて、英検・漢検・数検の3級を持っていると、加点があります。準2級を持っていると、さらに加点があるそうですよ」と言うと、
「ね、言ったでしょ。やっぱり資格は大事だって。受けさせておいてよかったでしょ」と母親が言います。
と、いろいろ話をしているうちに、子供が全然言葉を発していないことに気づきます。そこで子供に話を振ろうとして、私はこう言います。
「副教科の内申点も大事なので、頑張らないといけないんです。でも〇〇くん、体育が毎回ちょっと悪いからなぁ」と、子供の方に目線をやります。
「いや、でもそれはケガして休んでいたから、しょうがないわね」と母親。「マラソンとかがんばったらいいんじゃない」と父親。子供は何も言いません。
「~高校は、指定校推薦の数が多いのが売りなんです。でもレベル的には〇〇くんには少し物足りないかもしれないですね。特進コースだと〇〇くんにはちょうどいいです。ですが、そのコースは実力で国公立大学を目指すコースなんです。指定校推薦の枠は回ってこないんですね。そこをどう考えるか…」と子供に目線を向けます。
「物足りないということは、評定が取りやすいんですよね。じゃ、そっちの方がいいなぁ」と父親。
「あと〇〇高校は男子校なので、その辺をどう考えるかですね」と子供の方を見やります…が、
「それは気にしないわ。この子はあんまり女の子と話しないから」と母親。
付属校に行ってエスカレーター式に大学に行くのか、指定校推薦の多い学校を狙うのか、レベルの高い学校に進み、切磋琢磨し、難関大学を目指すのか。
学校ごとに特色もあります。海外大学に目を向けている学校もあれば、リーダーを育成することをうたっている学校もあります。生徒の自主性に任せている学校もあれば、徹底して補習を行い、学力を伸ばすことを宣言している学校もあります。
志望校を決めるポイントは、レベル以外にもたくさんあります。そういう話をする中で、子供に「どう思う?」と何度か話を振ってみましたが、父親か母親のどちらかが話を奪っていきました。
結局この面談中に、子供は一言も発しませんでした。そして両親は色々な学校のレベルが聞けたから、それで満足と帰っていきました。
私は、やはりもやもやしたものを残したままです。
子供に決めさせる
進路の選択は人生の一大イベントです。やはりここには、子供の意見は入れるべきだと思います。そしてどの方面に進むにしても良い面、悪い面があります。
それも踏まえて私自身、進路に関してはこちらから押し付けるのではなく、各家庭の方で相談して決めてもらうようにしています。進路に関しては、聞かれれば答えますが、どの学校がいいとか、どの学校が悪いという話はしないようにしています。
ある生徒が「◯◯高校は本当にクソ! 学校の先生に勧められて行ったけど、本当に失敗だったわ」と言いました。
同じ学校に行った別の生徒は「本当に三年間楽しかった!」と言っています。この生徒は自分で、この学校に行きたいと決めました。
自分で選んだものには、愛着がわくというのはあると思います。服やアクセサリーもそうですよね。
もちろん子供なので、判断が甘いことはあります。そんな時は、うまく誘導してあげてください。
壁のペンキ塗りを手伝ってほしい父親。しかしそれを子供に言うと嫌がります。そこで鼻歌交じりで、楽しそうに壁のペンキ塗りを始めます。それを見た子供が「僕にもやらせてよ」と言います。父親の作戦成功です。
こんな感じです。
まとめ
自分の人生を自分で決めることが、その人の幸福につながるという研究もあります。その最初の選択が、高校入試であることが多いです。
人まかせではなく、自分で決めたという経験を積ませてあげるのも、人生における勉強なのではないかと思うのです。
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